第49回テーマ

■学会主宰より前口上

当学会へようこそ。諸君はコンビニにて買い物をし、レジにて袋に入れてもらったモノを持ち帰るとき、いかようにしてそれを持ち運んでいるだろうか。つまり、コンビニ袋をどうやって持つかということだ。いやあの、どう持つって、こうやって……と袋を持つ仕草をしたとたんに、あなたも学会員。我々と共に戦おう。

■報告一



フツーだぜ!

取っ手を
5本の指で握る
ノーマル型

 たかがコンビニ袋を持つだけの行為に創意工夫を入れる必要はない。店員が品を袋に入れて差し出すのを、そのまま素直につかめばいい。取っ手を2つ合わせて普通に握ればいい。スムーズ&ナチュラル。コンビニ時代を生きる消費者の基本スタンスをいたずらに崩すべきではない。(稲)

■報告二



マダム・コンビニヤン

腕に穴を通して
掛ける
両手フリー型

 真摯な生活学徒としては買い物のプロたる主婦の英知を無視するわけにはいかぬ。尊重すべきは、籐の買い物カゴを持つように袋の取っ手に腕を通す持ち様。サザエさん色の強いこのスタイルは、袋があっても手が自由になるという高い機能性をも包含。プロの仕事に間違いはない。(南)

■報告三



踊るシバルンバ

取っ手を縛って
から持つ
中身密封型

 袋内にあるのは自分の金で買った大事な商品だという事実を思えばこの議論は見えたも同然。即ち最も重要なのは中の品を落とさないこと。袋は取っ手を玉結びで縛ってから持つべきだ。例えばルンバを踊りながら帰っても口から品がこぼれず笑みがこぼれるような安心感。これだ。(小)

■報告四



今夜は二重ロック

手首に
引っかけつつ
握る慎重保険型

 手首に取っ手に通して巻きつけ、仕上げに袋をむんずとわしづかもう。これなら何かの拍子で握力を失った場合でも、手首の引っかかりのおかげで袋の落下が防げる。いわば「安心二重ロック構造」である。日本人の危機管理意識向上はコンビニ袋から始まるといって過言ではない。(市)

■報告五



いけどり! ふくろウサギ

取っ手を動物の
耳に見立てる
握り型

 袋の上方にある2つの突起部分を「取っ手」と呼んで手を入れる人が多いけど、大間違いです。あれは耳。かわいいウサちゃんの耳なんです。ウサギの耳をつかむのはダメですが、袋はこの耳のつけ根をつかんで持ち上げましょう。だってこうしないとウサギに見えないんだもん……。(曽)

■報告六



とってもホック

一つの取っ手だけ
をつかむ簡易蓋型

 袋の口は締めたいけど、縛るのは面倒だし中の品を取り出すのが難儀で……という貴方には、片方の取っ手をもう一方の取っ手の穴から上に出して引っ張り持ち、袋の重さで自然に口を締めるこのスタイル。ホックを留める感覚がブラジャーみたいで男性陣が喜ぶこともしばしばだ。(古)

■報告七



回転ポーリー体

ねじった反動を
楽しむ
指ぶらさげ型

 取っ手の穴を指に引っかけ、ゼンマイを巻く要領でぐるぐる一方向に回せば、素敵な帰宅タイマーが出現。手を離すとポリエチレンの袋が回り始め、回転が止まる前に家に着くようつい頑張って歩いてしまうので、道草を食わず家路を急ぎたい帰宅者に最適なギアになるのだという。(辻)

■報告八



マイホールパパ、類似穴ママ

指で独自の
穴を開けて
しまう屈折型

 夢はマイホーム建設。でも現実は厳しくて実現は無理……。そんな父のストレス解消は、コンビニ袋に指で自分だけの穴を開けて持つことなんだ。それは髪は金色、目は青、本物のデキシークイーンを夢見る母も同じこと。既成穴でなく類似の穴を愛する二人を、ボクは断固応援する。(手)

■学会主宰より総括

コンビニ袋を素敵に持ち運ぶ、という生き方

 ここでは各論説の日常世界に鋭く食い込んで歩くたびにそれがぐいぐい上がってくるのでどうにも居心地が悪くてだんだん千鳥足のようになってくるかのようなささやかな非フィット感等に着目して論評を加えていくこととする。

 報告一フツーだぜ!はその名のとおりあまりにフツーであり、かつまた論旨も正論なので、これを全面的に受け入れるとあとが続かないとの危機感を抱いた。フツーでいいのか?

 報告二マダム・コンビニヤンにおける主婦賛美はご同慶の至り。が、主婦には太い二の腕という特殊武器が備わっていることも見逃せないのではないか。

 報告三踊るシバルンバはかなり機能的とは思えるものの、縛った姿がどうしてもゴミに見えてしまうのがいかんともしがたい。

 報告四今夜は二重ロックはかなり秀逸。ただ、危機管理にこだわるあまりに、まるでコンビニ袋に手錠をかけられているかのようにも見える点が切ない。

 報告五いけどり!ふくろウサギは、たしかにかわいいが、なんかヤバい。

 報告六とってもホックは新しい。意外に機能的のようにも思えるし、見た目も気分を変えて3回くらい見直せばイケてるかもしれない。ブラジャーの構造はよく知らないのだが……。

 報告七回転ポーリー体は暇ならやってもいいかも。

 報告八マイホールパパ、類似穴ママは屈折過剰。

 というわけで、今回の推奨スタイルは、斬新さとスタイリッシュさを兼ね備えていると無理に言えば言えなくもないとってもホックとしたい。以上。

■「学会うらばなし」

●今回もなんとなく学会オフィシャル絵師のオフィシャル絵を入れてみたわけ。

●フロム・エー連載版では、なぜだかこの回が連載史上最高の読者支持率を獲得。そしてさらに、「おもしろかった率」が「つまらなかった率」を初めて上回ったという記念すべき回として、主副両宰の胸に深く刻まれることとなった。

●9月10日までに単行本用の原稿を20本分書き上げると約束していた主宰。締切が近づいてもなんの音沙汰もない主宰に業を煮やした副宰がやんわりと、かつ、いぢらしく催促を促すと、「10日まで20本はやりますとも。そんな大変な気はしてないんで、まー気楽に取りかかります。軽いっすよ20本。たぶんきっと」というメールを送ってきた。へー、意外に頼もしいんだな、主宰って、と思わせるに足る文面だったが、15日の今日になってもやはり原稿は届いていない。副宰は今日も小さな乳首を痛めているのだった。


絵●龍野宏幸

研究ユニット●94年発足。生活上のグラマラスな題材について精力的but投げやりに探求中。定例学会を忘れることでつとに知られる主宰が、単独で編集部に高価なお中元を贈っていたという衝撃の事実が発覚。副宰は悶々と眠れぬ夜を過ごしている


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