第118回テーマ

学会主宰より前口上

生活様式学会へようこそ。諸君は100円のバニラテイストのカップアイスを買ってきていざ食べんと欲すとき、どこらへんからどのようにして攻め始めるのだろうか。まだまだ暑い日が続きますが、アイスで心も体も冷たくなろう。ひゅうう〜。

報告一

溶けやすく軟らかい外周から愛撫するように

外堀責めで愛ス

 カップアイスは非常に女性的な食べもの。いきなり核心をつく行動に出てもカチコチに体を固くして思うようにとろけてくれないが、カップの周縁部からゆっくり愛撫を続けて中央に向かえば自然とトロトロに軟らかくなってくる。上手に愛したいなら外堀責めに限る。


報告二

溶けにくく固い中心部から征服する充実感を

中央掘リーウェイ

 核心を衝け。正鵠を射よ。固い部分に真正面からぶつかってこじあけてこそ、策を弄せずひたすらに中央部を掘り進めてこそ、アイスを完全征服した充実感が得られるのだ。そうして初めて「右に見えるカップ場、左はアイス工場♪」とクールな鼻歌も飛び出すのだ。

報告三

カップアイスの一番旨い部分を真っ先に摂取

フタ肉のエンガワ

 魚の肉で一番旨い部分はどこかと問われれば、ヒレやエラ付近についたエンガワと答えるのが大人であろう。同様に、カップアイスの肉で一番旨い部分はフタについたエンガワである。他人に奪われる前に一番旨い部分を食ってしまう。これが大人というものである。

報告四

鰹節を削り出すが如き水平志向のアプローチ

スライスバニラは雪印

 表面をヘラでスライスするように削り取っていくホリゾンタルなアプローチがベスト。均等に削り進めていけば表面が常に平らだから新しいアイスを食い続けている気分だし、バニラ味の特製鰹節を削り出している感覚がゆきじるしく、いや、いちじるしく心地よい。

報告五

アイス平原を碁盤の目に区切る開拓者の作法

屯田兵ゲノム番外地

 フタを開けたてのカップアイスの白い処女地を見ていると、俺の中で屯田兵のDNAが活性化し始めるんだ……。そんな貴君にお似合いなのは、北の都の開拓者が大地を区画ごとに仕切ったように、ヘラで線を書いていくスタイル。白い大地は計画的に食うのが一番だ。

報告六

アイスを一気に高級デザート化する禁断の策

プリン哀モード

 デザート界の二大巨頭といえば、アイスとプリンですが、この両雄の魅力を同時に味わう一工夫といえば? チッチッチ、ブー。答は「レストランのプリンみたいにアイスを逆さにして中身を無理矢理フタの上に出す」でした。それは少し哀しいって? アラ、ドーモ。

報告七

塩の持つ三大機能でスーパーカップアイスに

しおしおのパワ〜

 氷に塩をかけると0℃以下に下がります。けがれたものに塩をまくと清められます。甘くないものに塩をかけると甘くなったように感じます。これらのことから、カップアイスに塩をかけるとスーパーカップアイスになることがわかりましたね。塩の力を信じましぉ〜。

報告八

アイスの雪で雪像を作る北国郷愁派の食べ方

俺が道産子に戻る日

 札幌を出てからもう幾年過ぎたろう。あんなに嫌いな街だったが、今では全てが懐かしい。フフ。小さい頃、雪まつりに参加しようって誘われても、わけもなく意地張って毎年断ってたっけ。アイスで一人で作るのもいいけど、本当は一緒に作りたかったんだよ、オヤジぃ。

学会主宰より総括

 冬来たりなば春遠からじ−−とはシェリーの言であるが、年取ってくるとなんかこう冬来たりなば来年の冬遠からじって感じですよ。昔アイスは夏しか売ってなかったなんて、今どきの若者は知ってるのかなあ。さて、総括である。

 報告一外堀責めで愛スはしかし、粘着質な中年男のベッドテクという雰囲気で今ひとつウケはよくなさげ。

 報告二中央掘リーウェイはヤングなテイストだが、ときどきアイス用の木のヘラがポッキリ折れちゃったりするのよね。

 報告三フタ肉のエンガワは、フタについてるアイスがはたして本当に特別うまいといえるのか、甚だ疑問。

 報告四スライスバニラは雪印は悪くない。悪くはないがアイスで鰹節感覚を楽しむことの倒錯ぶりはいかがなものか。ダシが利いていそうでゆきじるしく、いや、味噌汁しく違和感を覚える。

 報告五屯田兵ゲノム番外地は、そうやって区画整理しておいて結局は一人で全部食べるんですよね?

 報告六プリン哀モードは面白い。面白いけれども、やはりアイスはアイスとしてアイしたい。プリンはプリンとしてプリンとしていてほしい。

 報告七しおしおのパワ〜はそんなに無理をして塩をかけなくても…。

 報告八俺が道産子に戻る日はなんと感動的なのだろう。カップアイスにふと宿るノスタルジック・ファンタジー。涙で曇ってバニラがもう見えない。

 というわけで今回の推奨スタイルは、おやつ界に郷愁風味のカップアイスという新たな地平線を切り拓いた俺が道産子に戻る日としたい。以上。

学会副宰よりあとがき

●何度も言うように、『生活様式学入門』が文庫化されたのだが、本屋で見たことがない〜。もちろん肉屋や魚屋でも見たことはない〜。
●副宰の実家は札幌市にある。父親はラーメン屋をやっている。



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