第132回テーマ

学会主宰より前口上

生活様式学会へようこそ。諸君は公園などを散歩中にふと白くわたぼうし化したタンポポと遭遇したとき、どのようにしてその種子をとばしているだろうか。種子をとばさないなんぞ男子にあらず。いやもちろん、女子にとばしてもらうのも可。

報告一

マン風が吹いた日

吐息を吹きかけてごく自然な感じでとばそう

 構造的に見て、タンポポの綿毛というのは、風に乗ってとんでいくようにできている。人間が関わらない場合は勿論自然に吹く風だが、人間が関わる場合には、人工の風、即ち吐息をフーッと吹きかけてとばすのが最も自然で望ましい。人間も自然の一部なわけで。


報告二

大草原の小さな指揮者

指揮棒のように振ってリズミカルにとばそう

 タンポポはその語感からもわかるように実にリズミカルで軽やかな音楽性の持ち主。茎をつまんで軽やかに振れば、種たちは軽やかな旋律を奏でるように楽しそうにとんでいきます。そう、タンポポの種言葉はタクト。それを自在に振る君は草原のコンダクターです。

報告三

つまはじきスパルタン・ポポ

愛のムチとして指先でピシッと弾きとばそう

 今までは母花の庇護の下ぬくぬくと育ってきたけれど、これから種たちに待ち受けているのは弱肉強食の厳しい試練。スパルタ式に爪でビシッと弾きとばす洗礼で、巣立ちに浮かれる種たちに愛のムチを浴びせるのが、社会の先輩としてあるべき態度と言えましょう。

報告四

ハイ、タネコプター

竹とんぼみたいによじって回転力でとばそう

 飛行物体として見た場合、タンポポの種は、ジェット機というよりはプロペラ機の仲間だ。飛行機よりはヘリコプターの仲間だ。タケコプターよりは竹とんぼの仲間だ。茎を手のひらでよじり、その回転力で種をとばすスタイルの有効性は、最初から明らかだっタネ。

報告五

推進補助走獣ブースター

手に持って走り回り推進力をつけてとばそう

 言ってみれば、人間は誰も皆、タンポポの種の飛行を推進させるための補助エンジン。茎を手に搭載して辺りを全速力で走り回ることで種を飛行軌道に乗せるのが役目だ。役目を終えたら捨てられるのは悲しいが、タンポポのためになるならそれでいい。それがいい。

報告六

マン風を吸った日

強く息を吸い込む力で自分の口内にとばそう

 無意味なタンポポ至上主義はもうやめよう。相手はしがない植物。こっちは気高い動物だ。下手に出る道理などない。息を吐くと見せかけて相手を油断させ、一気に吸うのだ。食うのだ。タンポポの生命力が勝つか、人間の消化力が勝つか。これは異種生物間戦争だ。

報告七

覚醒! ハクション大鼻王

鼻の粘膜を刺激してくしゃみの力でとばそう

 昼寝をしている人の鼻穴に綿毛を近づけるべし。すると、粘膜が刺激されてくしゃみが出るので、寝ていた人はすぐに目が覚める。突風でとばされたタンポポの種には、くしゃみと一緒に放出された汁気によって発芽に必要な水分も供給されるというわけでごじゃる。

報告八

バイバイT-BOY

種に旅立ちを促して自分自身の力でとばそう

 公園のタンポポ花にぽつんと残った種一つ。甘えっ子なのだろう。「ずっとママと一緒にいるんだ」と泣いて母親を困らせている。「男には自らの力で旅立たねばならぬときがあるんだよ」。説得を試みるとふっきれた表情を見せた彼……。翌朝、少年はもういなかった。

学会主宰より総括

 出る月を待つべし、散る花を追うことなかれ−−とは中根東里の言であるが、それに加えるなら、タンポポの種はとばしといてあげようね、だ。リリカルさ倍増。さて、総括である。

 報告一マン風が吹いた日はマン風とはどんな風かと思いきや、人間が吹く風のことかとわかればしごくまっとう。さしたる目新しさもなしと断じよう。

 報告二大草原の小さな指揮者は、楽しげにとんでいく種たちのにっこり顔が目に浮かぶ……ような気もするが、自然を指揮しようとする人間どもの傲慢さに怒っていたらどうしよう。

 報告三つまはじきスパルタン・ポポはライオンの父子を思わせる。タンポポはダンディライオンだし。ただ、ただの社会の先輩である人間がそこまでタンポポにコミットすべきかは疑問。

 報告四ハイ、タネコプターは、別に普通に飛ばしてもタンポポの種は竹とんぼのようにとんでいくのですが。

 報告五推進補助走獣ブースターの自己犠牲的態度には涙を禁じ得ない。ただし、せいぜい公園を一周するくらいなのにブースターなどと自称する大げさぶりにも失笑を禁じ得ない。あと、走ってヘロヘロになるのも禁じ得ない。

 報告六マン風を吸った日は何を考えているのか不明。大体、吸うのなら種は肺に入るので消化力とは関係なくないですか。

 報告七覚醒! ハクション大鼻王は一瞬、納得。問題はすやすやと昼寝を楽しんでいた人も納得してくれるかどうか。

 報告八バイバイT-BOYは不覚にも大感動。さよなら、少年。

 というわけで今回の推奨スタイルは、やはり野におけタンポポわたげ、という山頭火的結論が見事だったバイバイT-BOYとしたい。以上。

学会副宰よりあとがき

●梅は散ったか、桜は散ったか、タンポポはまだかいな〜、というわけで更新。
●タンポポって黄色と緑でジェフ市原カラーだなぁ。なるほど、広域に広がるのも道理だなぁ(苦。
●誰も気づかないとは思うが、報告8は『ドラえもん』18巻「タンポポ空を行く」がモチーフ。ジーン。

●50人アンケートの結果。
マン風が吹いた日 31
つまはじきスパルタン・ポポ   5
大草原の小さな指揮者 4
ハイ、タネコプター 3
推進補助走獣ブースター 2
覚醒! ハクション大鼻王 1
マン風を吸った日 0
バイバイT-BOY 0
その他 4

名前上は兄弟関係の「マン風が〜」と「マン風を〜」がくっきり明暗を分けた。納得。その他には「蹴る」「首ちょんぱ」など。耳の穴に入れるのはやめようね



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