第99回テーマ

■学会主宰より前口上

生活様式学会へようこそ。諸君は公衆の面前にてふと己の鼻孔から鼻毛がびよよよーんと顔を覗かせていると気づいたとき、どのようにそれをごまかしているだろうか。笑ってもダメである。たぶん。

■報告一

指先でブチッとひっこ抜く最も抜本的な方法

涙のOKボーイ

 鼻の穴からびよーんと飛び出た鼻毛ほどみっともないものはない。こんなものを人に見られたら、鼻毛を読まれて見くびられるのは必定だから、親指と人差し指でつまんでひっこ抜き、涙でぼやけた視界に毛の姿を確認しよう。これぞ抜本的な対策というものだ。OK?


■報告二


他人の前でやっても安心の一時しのぎ的方法

ストップ! はなげくん!!

 人前で抜本的な対策を施すのは視覚的に問題がある。涙はいいとしても、抜いた毛を人に見られては元も子もないのだ。そこで必要となるのが、指先をさりげなく穴にあてがって鼻毛を奥に押し戻し、飛び出しを一時停止させる法。毛の暴走には指ブレーキが効果的だ。

■報告三


ハンドレスであることを重視した強力吸引法

バキュームパワーでぐんぐん毛が消える!

 真のさりげなさを重視するなら、ハンズフリーをこそ志向せねばなるまい。その点、鼻腔が真空になるほど強く鼻息を吸い上げた勢いで鼻毛を上方にたなびかせるというこの方法は、抜群のハンズフリーぶりが自慢。ぐんぐんって感じでごまかしのパワーが断然違う。

■報告四


鼻毛を放置してヒゲと思わせる漫画的な方法

バカボンパパ・インスパイア

 人は鼻毛を処理するために生まれたわけじゃないのだ。鼻毛なんかに気を取られていてはタリラリラ〜と楽しい毎日はおぼつかないのだ。鼻毛なんて伸ばし放題にしておけばいいのだ。そうすれば他の人は「立派なヒゲだなぁ」と思ってくれるのだ。これでいいのだ。

■報告五


長い髪の毛を垂らして隠すカモフラージュ法

真相は鼻薮の中

 自慢の前髪を前方に垂らしてみたまえ。太さ、色、成分などが鼻毛とほぼ同等である毛髪によってできた薮が絶妙なカモフラージュとなり、他人は前髪のうざったいヤツとしか思わない。迷彩服のアーミー? 忍者? 保護色のカメレオン? 真相はいつも鼻薮の中に。

■報告六


鼻毛をカールさせて鼻腔に収める高度な方法

カール・マルクスルの毛質論

 爪でしごくと毛はくるくる丸まってしまう。この現象を主著『毛質論』で喝破し、抜毛主義という妖怪がうろつく近代に新しい鼻毛観を示したのがマルクスル(1818〜83)である。その影響力は多大で、今も育毛派の鼻毛プロレタリアートからは根強い支持を誇っている。

■報告七


火炎で燃やしてしまうこうばしさ抜群の方法

う〜ん、こ毛くさい

 タバコに火をつけるふりをしてライターで鼻毛に火をつけると、鼻毛は一瞬のうちに燃焼してこの世から消滅してくれるので好都合だ。しかも場所が場所ゆえ、毛が燃えるとき特有のあのこうばしい香りをごく近距離から喫することができる。これにはもう萌え萌え。

■報告八


鼻毛同士を結んで装身具にするおしゃれな法

極細漆黒鼻ピアス

 どうしてみんなボクら鼻毛を忌み嫌うんだろう。よく見ればこんなに繊細で純黒で安価な逸材はないとわかるのに。ほら、鼻毛を抜かれたと思って(だまされたと思って)、右穴と左穴から一本ずつ出して結んでごらん。鼻ピアスさ。みんな鼻白むよ(気後れするよ)。

■学会主宰より総括

 我に自由を与えよ、しからずんば死を与えよ−−とはパトリック・ヘンリーの言であるが、恐らくは鼻毛もそんな風に思っていることだろう。だが大抵鼻毛に自由は与えられず、抜かれたり切られたり押し込められたりしているのだ。近代以降、鼻毛のたどってきた道は常に被抑圧の歴史であった。さて、総括である。

 報告1涙のOKボーイは単に抜くだけ。それは一体ごまかしなのかい? と問い質したい気分。

 報告2ストップ! はなげくん!!は、要は押し込むだけ。しかし、押し込んでも押し込んでもまたいつのまにか顔を覗かせているのが鼻毛なのだ。

 報告3バキュームパワーでぐんぐん毛が消える!は、それほどまでに強烈なバキュームは危険である。なぜならあらゆる塵埃やら小さな虫やら周囲の人々をも吸い込んでしまいかねないからだ。

 報告4バカボンパパ・インスパイアは頭の中身までバカボンパパになりきる勇気と英断が必要。

 報告5真相は鼻薮の中は鼻毛云々の前にうっとおしい。

 報告6カール・マルクスルの毛質論は抜くよりもかえって痛そうだ。

 報告7う〜ん、こ毛くさいは、よい子のみなさんは絶対に真似しないでください。鼻の中が火事になります。

 報告8極細漆黒鼻ピアスはアンビリーバブルだ。いつのまにか鼻毛がアクセサリーへと突然変異している。まさに生命の神秘。飛び出した鼻毛が2本以上必要な点のみを除けば完璧であろう。

 というわけで今回の推奨スタイルは、鼻毛をいきなり鼻ピアスにしてしまうというワイルドだかソフィスティケーティブなんだかよくわからないアイデアが最高シュールな極細漆黒鼻ピアスとしたい。以上。

■学会副宰よりあとがき

なんとなくやる気を失って更新を怠ってからすでに3ヶ月半。たまに何かを思い出したように更新していくことにいたしましたとさ。




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