第40回テーマ

■学会主宰より前口上

当学会へようこそ。諸君は6月の朝方からの雨がつと降りやんだ午後ホームでなかなかやって来ない電車を待つともなく待つあいだに今や用のなくなったちょっぴり濡れた傘、をいかように処理しているであろうか。傘という小道具と駅ホームというステージ。2つが組み合わさったとき、貴方のパフォーマンスは始まる。

■報告一



イメ・クラ課長

傘をクラブにして
スイングの練習を

 ゴルフが上司や客との潤滑油である会社員にとってはスイング練習が必須。うますぎてもヘタすぎても顰蹙を買うため、最適レベル維持の努力が常に不可欠だ。ホームで傘をクラブにして練習すれば危なくて他人は寄りつかず、余裕の電車待ちも可能。内緒で叫ぼう、ナイッショー!(中)

■報告二



快速待ちの杖紳士

傘をステッキにすれば
ラクに待てる

 いつも酷使されているのに愚痴も言わず頑張っている足さんを少しでも不憫に思うなら、迷わず傘のステッキ化を選択しよう。電車が来るまでのひととき、負荷を傘に肩代わりさせることで、その後の足さんのやる気は目に見えて変わってくるものだ。違いがわかる男は知っている。(曽)

■報告三



山の手のレインボウ貴婦人

傘の本分を考えて
ヒジにひっかけよ

 傘の柄をよく見て下さい。ぐぐっと湾曲しています。このカーブは何のためにあるのでしょうか。わかりますね。傘はヒジにひっかけるよう設計されているのです。神がそう造られたのです。創造者の御心を感じた時、貴方の後ろには七色の虹がかかっています。まばゆいですね。(戸)

■報告四



濡れて2番ホーム

ベルトひっかけなら
両手がフリーに

 ホームではスポーツ紙を読みたい。でも傘が邪魔だ。どうすればいいか。傘をベルトにひっかければいい。これなら両手が完全にフリーなので、紙面を思う存分広げて読むことができる。傘が濡れているとズボンが濡れてしまうという指摘など、人間の旺盛な知識欲の前には無力だ。(福)

■報告五



ここはブラジル駅

傘リフティングで
W杯を盛り上げよ

 2002年W杯を控えた日本が少しでも王国ブラジルに近づこうとするならば、生活にサッカーを取り入れる方策を探るべきだ。そこで注目を集めるのが傘リフティング。電車を待つ合間でも気軽に足の感覚が養える妙策だ。日本サッカーの夢は傘と足が奏でるリズムにかかっている。(明)

■報告六



めざまし機能搭載

ウトウトは傘を体に
立てかけてから

 恋に仕事に大車輪の彼女は会社帰りが疲れのピーク。電車を待っているうちについウトウト…危ないね。電車にひかれて永遠の眠りにつくなんて最悪。傘を体に立てかけておけば、ウトウトと同時に傘が倒れてハッと目が覚めるはず。傘のめざまし効果って、結構めざましいみたいよ。(柳)

■報告七



揺れる傘ごころ

バランス競技で
退屈な駅に楽しみを

 電車を待つのは退屈極まりない。ホームには娯楽設備がないのだ。ならば自分が娯楽を提供してみてはどうか。傘を手のひらに立てるという単純かつ困難なバランス競技にチャレンジするのだ。ホーム端の監視用カメラの撮影範囲をステージにして、駅員人気独占を狙うのも楽しい。(宮)

■報告八



わがままマイライン

傘で作ったラインが
信条をアピール

 ホームの白線の位置って少し慎重すぎない? あんなに余裕取るからラッシュの混雑が余計に増すのよ。って駅員に言っても全然取り合ってくれないからアタシはアタシで主張する。傘で自分用の線をひいてそこに並ぶわ。ズルして前に並ぼうってつもりはないわ。ウソ。少しあるわ。(酒)

■学会主宰より総括

傘と人間との関係性が紡ぎ出す駅ホーム物語

 ここでは各論説の重厚なる考察と軽妙なる語り口のハーモニー、あるいは読むだにハタと膝を打つナイスきわまりないアイデアのオーケストレイション等に留意して論説を加えていくこととする。

 報告1【イメ・クラ課長】はたしかにホームで見かける図ではある。が、要するに傘をゴルフクラブと想定してイメージトレーニングしている課長のことかとわかるまで約13分かかった。

 報告2【快速待ちの杖紳士】は、これもあるある。ただ「足さん」にとっては杖よりその場でマッサージでもしてあげたほうが喜ばしいのではと心配が募る。

 報告3【山の手のレインボウ貴婦人】だが、これもまたノーブル。虹についてはヒジと掛けているのかと思ったが創造主とは。

 報告4【濡れて2番ホーム】は実は個人的によくやるのだがほぼ男性限定なのが惜しい。男が濡れても…。

 報告5【ここはブラジル駅】は音もうるさく周囲にはかなり迷惑で、「サッカーってやあね」と思われると逆効果もしれず。

 報告6【めざまし機能搭載】はその機能性もさることながら、傘を体に立てかけているだけというデリケートな立ち姿の有り様に不思議に心打たれる。

 報告7【揺れる傘ごころ】は危ない。

 報告8【わがままマイライン】はかなり捨てがたい技だが、白線より前に立つのは本人も言っているようにやはりズル。

 というわけで今回の推奨スタイルは人と傘との持ちつ凭れつの関係を確立してみせた【めざまし機能搭載】としたい。以上。

■学会うらばなし

●〜あらすじ〜 報告1では、「駅」とか「ゴルフ」とかの単語を報告名に導入しようとする副宰と、自身の好みを踏まえてか「イメクラ」の線で押そうとする主宰が一触即発の事態に。両者一歩も譲らぬ攻防が繰り広げられた結果、いつものように地位の違いを利用した主宰が言い分を通した。が、「パッとみてゴルフネタとわからせないともったいないじゃないか!」と収まらない副宰は、学会終了後に事務員に電話し、代替報告名「課長は駅ゴルファー」でいくという内諾をとりつけるという卑劣な秘密工作を敢行。かる〜くいかにも事後報告という感じで主宰に伝えたところ、「イメ・クラ課長、ダメですかね。僕としてはかなり気に入ってるので惜しいです。イラストでゴルフやってることがわかればなんとか…ってわけにはいかないものでしょうか。という主張にも拘わらずやはり『課長は駅ゴルファー』にすべきとのことであれば、すぐに妥協いたしますが。でも、惜しい」という涙の説得メールが到着。ワルぶってはいても根はいいやつ(ex.バッドバツマル)を標榜する副宰はいたく涙腺を刺激され、結局「イメ・クラ課長」に落ち着いたのでした。とさ。 ←そう思ってもう一度主宰の総括を読んでみると、これがけっこう味があります。


研究ユニット●94年発足。生活上のグラマラスな題材について精力的but投げやりな探求を行う。読者からはあまりお薦めの声を聞けないがネット界の重鎮とも言うべきINTERNET Watchが当学会サイトをお薦めとして紹介してくれた(5/18付)。


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