第57回テーマ

■学会主宰より前口上

当学会へようこそ。諸君は消しゴムを使っていてだんだんと消しゴムがすり減ってきた頃、その消しゴムにはめられているあの紙製のケースをいかように遇しているだろうか。消しゴムは徐々に小さくなりやがて消えていくもの、一方、ケースは放っておけばまずその姿大きさは変わらぬもの。そこに消しゴムとケースが紡ぎ出すドラマがあるのだ。

■報告一



ライド式しんぴんだMONO

ケースを
ズラしたまま
使う
おニュー感
維持型

 消しゴムがすり減ってきたら減り幅に応じてケースをスライドさせて使うべし。常に一定幅の消しゴムが顔を出すよう調節し、紙ケースの劣化に細心の注意を払えば、ずっと新品のイメージを保持できるのだ。いつも新しいMONOを使う。それが文房具エリートの醍醐味だ。

■報告二



をむく女

らせん状に
紙ケースを
破いていく
皮むき方式

 見舞いに来た病室でリンゴをむく女。「ア〜レ〜」と叫びながら帯を引っ張られて脱がされる女。その辺の好映像を想像する癖がある貴方なら、消しゴムケースはらせん状にむいて破こう。しこたまむかれてみたい……男性のMONOなら誰しも思っているはずだからだ。

■報告三



ってたたんでケッシケシ

ケースを
ズラした後に
折りたたむ
余剰隠し型

 ケース移動は当然だが、消しゴムを実用品として捉えれば、余った部分を放置するのは愚策。余った皮はどの世界でも邪魔MONOなのだ。紙ケースという特性を活かし、余剰部をぎゅっぎゅっと折りたたむ工夫が欲しい。ラミネート以前の金属製歯磨きチューブに学べ。

■報告四



くるめく白き角バナナ

めくった
紙の皮を
四方に垂らす
キュート作法

 まるでバナナをむくように、紙ケースを四方にぺろぅりとめくっていく。すると、黒鉛で汚れちまった旧世代の下から、新しくて真っ白な新世代が眩しそうに顔を見せるって寸法よ。下からめくればタコウィンナー的でキュート。たまにはそんな発展性もいいMONOさ。

■報告五



裸主義者のポイ捨て

紙ケースは
ゴミとして
切り捨てる
本体重視説

 消しゴムとは、こすると鉛筆の線を消すことができる、弾力のある白いアレのことを指すのであって、ケースはあくまでも包装に過ぎない。ならば話は簡単。購入と同時に不要となったケースはゴミ箱へ直行。いいMONOを持っている場合は、人も消しゴムも裸が一番。

■報告六



イム・ケース!

箱としての本分を
全うする
いちいち片づけ型

 消しゴムの本分は修正にある。ではケースの本分とは? 内容物の保管である。いわばケースは消しゴムの家。消すときは裸で使い、消したら紙箱にその都度しまう。それが両者の本分を理解したやり方だ。「俺は入れMONOだ」とケース自身が胸を張れる環境を作ろう。

■報告七



っかりヘヴンはシースルー

紙の代わりに
フィルムを
入れ物化する
抜擢型

 透明フィルム。それは、一般人には無視されるが真にMONOを愛する雲の上の人には重宝される存在。ケースから外した本体を直接フィルムに挿入。1.減り具合が一目瞭然、2.本体が手垢で汚れない、3.チューチューアイスみたいで楽しい。他の追随を許さぬ三大特長だ。

■報告八



Dr.コミヤの永久消しゴム機関

カスを再び
消しゴムと
一体化させる
再利用型

 消しゴムが小さくなるのはカスを捨てるから。ではカスを捨てずにまたくっつけたら? MONOは永久に小型化しない。プラスチックは合体しやすいのだ。この究極の再利用法確立には、ロケットペンシルを発明した小宮清則博士(1903年〜)の努力があることに注意。

■学会主宰より総括

ケースは消しゴムの一生を見守っている

 弱き者よ、なんじの名は女−−とはシェークスピアの言だが、使われるほどにみずからの体をすり減らせていく消しゴムとは男性的なのか女性的なのか。はたまたケースは弱き者なのか強き者なのか。考えるだに悩ましいが、別段考えてくれなくても結構と当の消しゴムたちは思うことであろう。ここではそんな意も汲みつつ、各論説に論評を加えていくこととする。

 報告1スライド式しんぴんだMONOは要するに見栄っぱりな言説か。消しゴムが極限にまでチビたときにはどのような行動を取るつもりだ。

 報告2皮をむく女には正直、少々そそらされた。しかしこの女、新消しゴムを入手するたびにケースを最後まで一気にむいてしまいかねない。

 報告3折ってたたんでケッシケシは、報告2に続いてなおも皮に執着しているのが痛々しい。

 報告4めくるめく白き角バナナはさりげないようでいてインパクト充分。タコウィンナーという細かい芸も好印象だ。

 報告5全裸主義者のポイ捨てはあまりにも、ああ、あまりにも非人道的ではないか。ケースに人格があると妄想した上での話ではあるが。

 報告6アイム・ケース!ならマッチ箱型のケースなどが理想。

 報告7うっかりヘヴンはシースルーだが、フィルムとケースをコンバートするなど邪道の極みである。

 報告8Dr.コミヤの永久消しゴム機関については、小宮博士の孫娘が「やってみたことあるけど、くっつかないよ」というコメントを残していることを紹介しておく。

 というわけで今回の推奨スタイルは、ケースの処遇にセコい技を盛り込むことで「見せるケース」というコンセプトを確立しためくるめく白き角バナナとしたい。以上。

■「学会うらばなし」

●報告8で言及されたロケットペンシル考案者・小宮清則博士は、実は主宰の義理の祖父にあたる存在である。


絵●龍野宏幸

研究ユニット●94年発足。生活上のグラマラスな題材について精力的but投げやりに探求中。精密なオマケが評判の卵型チョコ「キンダーサプライズ」の割り方を学会テーマに推した副宰。満を持しての提案だったが、主宰と事務員に強い冷笑を浴びてやむなく退散。光が化文化圏在住の限界をかみしめた。


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