第43回テーマ

■学会主宰より前口上

当学会へようこそ。諸君(メガネ使用者限定)は、己が装着しているメガネの位置にズレを感じたとき、いかなる具合にそれをずり上げているだろうか。そう言えばどうやるかなー、とぜひ今一度確かめてみるべし。メガネ大国ニッポンにおけるメガネ使用者ならば、そのずり上げ方にも最大限注意を払うのが矜持である。

■報告一



サリゲにワンフィンガー

指でブリッジを
押し上げる
控え目型

 ヅラを人前で直すのは憚られるだろう。メガネのズレもまたしかり。たしなみある大人なら、オーバーアクションで直すのは避けるべき。さりげなく手で鼻を覆い、一本指でちょいと眉間のブリッジを押し上げよう。中指だけを立ててやると外国人から誤解されるのでいけません。(下)

■報告二



安定感と懐古感が
強い片手つまみ型

 人差し指と親指でフレームのリムをつまんで上げるのが正しい。しっかりつまめて安定度の高い修正が可能。というのは建前で、要点は指の形。勿論、視力検査のあの形だ。開いてる方向がわからずやむなくメガネ使用となったあの日の気持ちを忘れるなと己に言い聞かせるのである。(服)

■報告三



哲学者、憂う

顔を片手で覆って
ずり上げる苦悩型

 存在…認識…宇宙…。常に対象に疑問を投じるのは哲学者だけではない。なぜ…いつ…いかに…。メガネ者もまた、常にズレに対し答を問うているのだ。てなわけで、眉間にシワを寄せ、中指と親指で丁番を押さえて位置調整するこのスタイル。一瞬変装? と思わせる効果も悩ましい。(斉)

■報告四



アニメ少女気質だモン

人差し指に
載せ上げる
涙ごまかし型

 アニメ好きな少女は本質的におセンチなために泣きやすく、涙をごまかす作法に長けているという。メガネがズレた時は特に大チャンス。人差し指の先をリム下に押し当てれば、ほんの少しの動きでズレが直せる、と同時に涙ぬぐいが可能。メガネっ子であることを感謝する瞬間だ。(奥)

■報告五



スッ。

両つるを
はさみ上げる
メガネ愛用型

 「着脱時、必ずつるを、両手で持って」。購入した時にメガネ屋の五七五好きの主人がこうアドバイスしていたことを思い出そう。フレームの変形を防ぎメガネを長持ちさせるには、このやり方が一番正式で正統でおメガネにかなっているのだ。ズレ直し、スッと両手で、サイドから。(山)

■報告六



テコの原理

つるの先を
押し下げる
ひょうきん型

 メガネとテコ。動物と一線を画す我々が選択すべきは、この人類二大叡智を組み合わせた文明的所作だ。つるの先を耳の裏で押し下げよ。耳が支点となってレンズ付近がヒョコッと上がり、適度なかけ心地が復活する。この時、嫌味にならぬようひょうきん者を装うのが真の文明人。(森)

■報告七



顔面筋肉マグニチュード10.5

顔の動きだけで
上げる
ハンドレス型

 顔だって一人前の人体パーツさ。顔のことは顔にまかせてやれって。手なんぞがおせっかいにしゃしゃり出ることはないのさ。顔面各地の筋肉の弛緩と硬直を最大規模かつ巧妙に繰り返して、メガネを最適な位置に導くんだ。顔面プレートテクトニクスだ。メガネは顔の一部なんだ。(西)

■報告八



いっそヘアクレーン

長髪で引き
上げる建設
現場もどき型

 前髪をブリッジに通してメガネを引き上げる、ハゲには無理なこの工事には、細心の注意が必要よ。目さんはしっかり状況を監視して。口さんは目さんの合図を大声で報告。そして手さん。今回はあなたと部下の指さんに成否がかかってること忘れないで。オーライ? じゃ、いくわよ!(久)

■学会主宰より総括

メガネずり上げ行為に
新機軸は成立し得るか

 ここでは各論説の深い思慮に基づいた力強い主張あるいは気弱な逃げ口上、および最後はとにかく言い切っちゃうんもんね的開き直り根性等に留意して論評を加えていくこととする。

 報告1サリゲにワンフィンガーは、ヅラのズレとメガネのズレとを同列に論じるのはさすがにズレすぎだと思ったズラ。そんな感じである。

 報告2は、視力検査へと論旨を運んでいったのはさすがと唸りかけたが、左右に開いているあの形はできても、上下に開いている形を再現しつつズレを直すのは難しいのではとの疑念を抱いてしまった。

 報告3哲学者、憂うは、そんなに苦悩するならいっそアロンアルファでメガネを顔に貼りつけとけ!などと悪態をつきたい気分。というか、ウザい。

 報告4アニメ少女気質だモンは可愛い。可愛いが、ごまかしているのは涙だけではなく鼻水もなのでは? とそこが気になった。

 報告5スッ。の「着脱時、必ずつるを、両手で持って」は五七七である。

 報告6テコの原理は手で持つメガネの部位といい、その所作といい、新鮮な印象があって悪くない。しかもテコ。そのお笑い要素のさじ加減も申し分ない。

 報告7顔面筋肉マグニチュード10.5が可能な者は日本人どころか地球人かどうかも疑わしい。

 報告8いっそヘアクレーンは、おまえ誰なんだよ、とだけ言っておこう。

 というわけで今回の推奨スタイルは、耳とメガネのテコを介した文明的関係性を再発見してみせたテコの原理としたい。以上。

■「学会うらばなし」

●今回、報告絵のタッチが前回のものと変わったな、と気づいた読者の目は節穴ではない。今まで嬉々として絵を描き起こしてきた副宰が、「もしかして俺は他の二人よりも重労働を余儀なくされているのではないか。ホームページの更新作業もやってるし。でもフロム・エー連載分のギャラは一緒だし…」と気づき、突如として任務遂行を放棄したため、かつて漫画家として作品を発表したこともある事務員に続き、最近遅刻が目立つことで知られる主宰にお鉢が回ってきたのだった。

●6月、8月、10月と、どんどん発売予定が延びている学会の単行本作りが、ついに本格段階を迎えそうな気配。扶桑社の担当・碇氏からレイアウトラフが送られてきたのである。もちろん、学会のオフィシャル絵師・龍野画伯のオフィシャル図版も好調にアップしつつあり、主副両宰の力量が問われる時期が到来の案配。

●それに伴い、単行本のタイトル案を考え始めた主副両宰。徹夜で寝ながら考えた結果、下の候補名を碇氏に提出してみたが、反応は芳しくなかった。なんかいい案ないすか?

○ボツ名の例)
ポップな暮らし方、暮らしと生活、人類の暮らし方(大仰に)、人間の暮らし方、ライフ・スタイリストになるには (なるにはブックスシリーズ的に)、ライフ・テクニシャンになるには、生活エブリデイ(なんとなく)、空想生活読本(ヒット本に敬意を表して)、笑う人間の生活(ヒット番組に敬意を表して)、ライフ・スタイラーズ・バイブル(生活様式にうるさい人々、の造語)、スタイラー、スタイリースタイリー、ハバグッライ(have a good life!の意味)、生活王子(王はありがちなので)、生活副大統領 (大統領はありがちなので)、生きざま図鑑(大仰に)、暮らしざま図鑑、いきいきライフさんこんにちは(なんとなく)、日常スタイル画報(率直に)、デイリー・ライファーズ雑報、生活者たち(冒険者たち)、日常者たち、オレスタ(オレ・スタイルを省略)、マイスタ(マイ・スタイルを省略)、イエロースタイルブック(日本人色を強調)、黄色アカデミー、黄色い生活者、Jlife批評(Jポップ批評)、暮らしの一家言、マイ説(前説)、能書きたれ!(名詞&命令形)、屋根裏の生活者(屋根裏の散歩者)、暮らしの丸焼き、生活だよおっかさん(東京だよおっかさん)、基礎からの生活氈i参考書)、ポッキッキーズ (ポッキーを象徴としてフィーチャー)、暮らしのライセンス(殺しのライセンス)、暮らしの花園、プロの生活者、ホップ・ステップ・ライフ、イズム(〜ism、主義)、イズムーチョ、ミクロの生活圏(ミクロの決死圏)、生活style、生活一番星、クラッシー


研究ユニット●94年発足。生活上のグラマラスな題材について精力的but投げやりに探求中。主宰と副宰は先日ライター・ロビー田中と日本対ベルギーを観戦。飲み会で「観る側の本質はダサさにあり」と訴えた副宰がロビーに責められたが主宰は助けてくれず。


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