第139回テーマ

学会主宰より前口上

生活様式学会へようこそ。諸君はいまいましき蚊に刺されたその後、ムズムズと疼く患部に対し通常いかなる処置を施すであろうか。ママがやさしくキンカン塗ってくれるもん! とかいう人や、堪え性なく掻きむしりまっす! という人は除く。

報告一

爪先で十字の痕をつけるのが二重の意味で吉

刺されキリシタン伝説

 蚊に刺されたら患部に爪で十字の印をつけるといいと言い伝えられている。こうすれば、十字を切るのと同じ効果があり、父なる神がかゆみから庇護してくれるはずだし、十字は〆印でもあるため、かゆみを締め切る=もうかゆくないというおまじないにもなるのだ。


報告二

かゆみを痛みでごまかす蚊処置バイオレンス

しっぺはかゆみ忘却成功の素

 痛みとかゆみはどちらも痛覚を母に持つ兄弟のようなもの。この点を理解し、患部には痛烈なしっぺを敢行すべき。痛みはかゆみを包括した感覚であり、これなら痛いだけでかゆさはほとんど感じない。より痛みを強めるには、しっぺの指を振り切らずに止めること。

報告三

周辺部を掻いて核心を掻いた気になれば安全

人呼んで錯覚のカク

 蚊に刺されたら、やはり爪でボリボリ掻きたいのが人情。だが、患部自体を掻いてしまったら、以後永遠に掻き続けねばならない事態に陥る。そこで浮上するのが、患部の周辺部を思う存分掻く作戦。掻いたのは患部だと意識的に錯覚すれば、この勝負もらったも同然。

報告四

唾リキッドと息ウィンドで冷やすクール処置

唾息冷却で鈍!

 刺された患部は、まずはベロベロとなめます。唾液で十二分に濡らしたら、唇をすぼめてフーッと息を吹きかけましょう。唾と息の相乗作用で患部が冷却され、かゆみは格段に鈍るはずです。唾液には若干殺菌作用があるのも嬉しいですね。蚊にはツバクールが常識。

報告五

患部に口づけし吸気で毒を吸い出すのが安全

吸い出せ! 毒春

 たかがモスキートと侮るなかれ。マラリアや日本脳炎といった恐ろしい病原体の媒介をする種類もおり、刺された際は慎重な応対が必須だ。即ち、毒ヘビに咬まれたときのように、患部に口を当てて毒を吸い出し、ペッと吐き出すのが正しい。飲み込んでは意味なし。

報告六

高さと絞りでかゆさの原因となる血流が減少

ブラッド・チョビットにドキッ。

 かゆさの原因となるのは血。血流が滞って患部付近の血が少なくなればかゆさも鈍るはず。とすれば、心臓より高い位置に患部を上げるのがいい。患部付近をきつく握ったり縛ったりして血の流れを弱めるとなおベター。血を止めすぎると患部が壊死するので要注意。

報告七

アンモニアの力を盲信したおしっこぶっかけ

尿薬口に苦し、肌に甘し

 本当なら市販の虫刺され薬をつけたいが、手元にない場合は、人工虫刺され薬として尿をかけるしかなかろう。尿にはアンモニアが含まれており、アンモニアは虫毒の酸性物質を中和し、かゆみをやわらげる成分として市販薬にも使われる成分。尿薬は妙薬の異称だ。

報告八

患部同士を合わせれば愛が孵化するとの噂?

ボウフラあがりのキュービッド

 蚊は夏の風物詩。嫌がるんじゃなく、楽しむ姿勢こそ大事だね。たとえば、「患部と患部をドッキングさせるとかゆみが止まるって知ってた?」と吹聴して、気になるあのコとボディタッチ・なんてどうかな。蚊が取り持つラブなんてモスかしてキーット素敵かも!

学会主宰より総括

 犬が人間を噛んでも大したニュースではない、だが人間が犬を噛めば立派なニュースだ−−とはチャールズ・デーナーの言であるが、これに当てはめるならば蚊が人間を刺しても大したニュースではないが、人間が蚊を刺せば立派なニュースになるわけだ。でも、どこで刺すの? さて、総括である。

 報告一刺されキリシタン伝説はよく見かける行為だが、しょせんはおまじない。大マジじゃないよね? と批判しておこう。

 報告二しっぺはかゆみ忘却成功の素は、だけどしっぺをいっぱいするとなんかかゆくなってくるし、だとしたら蚊に刺されたかゆさとしっぺしてかゆくなったかゆさが合わさってめちゃかゆになるんじゃないの、という気も少し。

 報告三人呼んで錯覚のカクは、つまりは核心部分を避けたごまかし手法でしょう、カクさん?

 報告四唾息冷却で鈍!は、痛覚を鈍化させるほどの冷却効果がはたして唾と息のコンビニネーションのみで得られるのか。欧州や南米の強豪相手に勝てるのかっ。

 報告五吸い出せ! 毒春は蚊と間接キスしているわけですねという状況に気づくと耐え難い。

 報告六ブラッド・チョビットにドキッ。は、どうも的はずれな行為である気がして仕方がないのだが気のせいか気のせいなのか。

 報告七尿薬口に苦し、肌に甘しは鼻に臭し。

 報告八ボウフラあがりのキュービッドは、蚊に刺されたことがなぜか突如ラブに発展している点が革命的。蚊をキューピッドとして捉えることで蚊に対するラブをも表現。奇蹟の報告だ。

 というわけで今回の推奨スタイルは、蚊も恋のキューピッドとしてとらえれば多少刺されてもいっか…とあきらめもつきやすいボウフラあがりのキュービッドとしたい。以上。

学会副宰よりあとがき

●だいぶ前に立ち消えになったのだと思っていた台湾版単行本の話がまだ生きていたことが判明! どうやら1年後ぐらいに出るらしい。
って、最初に話があってからもう2年以上たっているのだが…。台湾出版界おそるべし。
●報告七は、鼻に臭し、なばかりか、尿に含まれる雑菌が体内に入る恐れがあるのでイヤ〜ンです。



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