第65回テーマ

■学会主宰より前口上

 生活様式学会へようこそ。諸君はまだお年玉をもらえるお年頃だろうか? いやあ実は30過ぎてますけどまだもらってますわい、という人は人生について考えた方がいいが、20歳過ぎてまだもらっている者は最近意外と多いらしい。というわけで今回の学会はお年玉のもらい方スタイルを研究する。しかも今世紀最後のお年玉である。ここはひとつ、抜かりなくいただけるよう態勢を整えておくべし。

■報告一



んで以下同文

卒業証書の
もらい方を
応用した
厳粛スタイル

 右、左の順番で手を添え、一礼とともに受け取ったら、厳粛な面持ちで一歩後ずさり。卒業証書を受け取る際のマナーはお年玉受け取りでも当然有効だ。貴重な金のゲットで緊張するのはわかるが、もらった後の歩行で同じサイドの手足が一緒に前に出ないよう注意。

■報告二



が家に手盆と正月が

差し出した手に
載せてもらう
恭しいスタイル

 お年玉レシーブで一番重要なのが相手への敬い表示だとすると、両掌をお盆のように差し出していただくのが最適。相手が日本人でなくても「ア、敬ッテルナ」と気づく世界標準様式だからである。ただでさえめでたい正月に盆の要素まで加わるにぎにぎしさも素敵だ。

■報告三



けましてごっつぁんです

日本の国技を
意識した
懸賞受け取り
スタイル

 日頃西洋の生活様式に浸かりっぱなしの現代人が日本文化を意識する一大好機。それが正月だ。中でも実に日本的な慣習であるお年玉の受け取りには、国技・相撲の振る舞いを応用するのが自然。懸賞金を手刀で切ってもらう力士の姿を模せば、君も今日から横綱だ。

■報告四



詣いらずの新春白刃取り

相手を神様と
とらえて拝む
簡易神社
スタイル

 この不景気なご時世にお金を恵んでくれるなんて神

様のような人だ。いや、神様そのものだ。となると、神社に行かなくても初詣ができてしまうわけだ。パンパンと柏手を打ちながらお年玉を拝み受け、新年の幸せを祈ろう。手のシワとシワを合わせてしあわせだ。

■報告五



モオメデット・ミスターロボット

自分を機械人間化
する近未来志向の
スタイル

 ホンダの二足歩行ロボット、アイボ、そしてだいぶ落ちるがファービー。ついに到来したこのロボット時代には、チョキでお年玉を挟んで受け取るサイバースタイルこそがふさわしい。ウィーン、ガチャ。各地で誇らしげな機械音が鳴り響いている、西暦2000年元旦。

■報告六



子舞キャッチで家内安全

一年の無事を
ダンスで祈る
縁起担ぎスタイル

 獅子舞にかまれた赤ちゃんは、その一年を健康に過ごせるという。この風習を大切に考え、潔く自分が獅子舞になる決心を固めたい。前歯をガチガチ鳴らし、お年玉にかみついて受け取るのだ。悪の片棒担ぎは厳しく批判されるが、正月の縁起担ぎは称賛されるはず。

■報告七



う腹には福来たる

顔を描いた腹に挟んで取る
かくし芸
スタイル

 お年玉は決して寄付なんかじゃない。渡す側はもら

う側に見返りを求めて当然なんだ。貧乏な受け手ができる唯一の見返り、それは腹芸だ。たるんだ腹に前もって描かれた笑い顔が上手にお年玉をくわえることができたら、さぁお立ち会い。福がそこまで来ているよ。

■報告八



金モチ!? ギャフン

ダジャレで
初苦笑いを

狙うとりもち
スタイル

 お年玉を通じてみんなが朗らかになる必殺のシナリオを伝授しよう。1.モチを頬張る。2.よく噛んでくちゃくちゃにする。3.モチかすを指先につける。4.指をお年玉にくっつけて自分の方に引き寄せる。5.これがほんとの「お金モチ」と言う。6.一同大爆笑。…ネッ!

■学会主宰より総括

もらう側にもメッセージは存在せし

 お世辞は我々の虚栄心のおかげでのみ通用するにせ金である−−とはラ・ロシュフコーの言であるが、なるほど、親がお年玉をくれるときに妙に歯の浮くような台詞を口にしていたら中身は薄いと諦めた方がよさそうだ。さて、総括である。

 報告1謹んで以下同文は、これをやってしまってはもうお年玉をもらうのも今年限りで卒業との意思表示とも受け取られかねない。危険。

 報告2我が家に手盆と正月がは日本独自の文化であるお年玉をもらうのに世界標準である必然性はあるのか。どうやら世界中からお年玉をもらいたいとの趣旨のようだ。

 報告3あけましてごっつぁんですは逆に日本の独自性を前面に打ち出しているものの、相撲は相撲、お年玉はお年玉、小錦は小錦である。

 報告4初詣いらずの新春白刃取りはお参りを模していながら白刃取りという闘いの技を繰り出している点が否。

 報告5ドモオメデット・ミスターロボットは失笑…いや失望…いや失禁を禁じ得ないほどの衝撃に打たれた。突然ロボットになられても…という困惑を呼び起こす唐突さが何といっても感動的。

 報告6獅子舞キャッチで家内安全は「あー、獅子舞ね」と理解されないと悲惨。

 報告7笑う腹には福来たるはたるみ腹の持ち主限定。

 報告8お金モチ!? ギャフンはお寒い正月になってしまったようだねと言っておく。

 というわけで今回の推奨スタイルは、人間がロボットを模してお年玉をせしめるという倒錯の果ての馬鹿馬鹿しさが未来を予感させるドモオメデット・ミスターロボットとしたい。以上。

■「学会うらばなし」

●今回も学会オフィシャル絵師のオフィシャル絵を入れてみたわけ。

●前回更新時の「おれはもうしらん」という捨て台詞を受け、2ヶ月ほど学会ページの更新が滞ってしまった。プリンタ一体型のスキャナを使っているので、スキャンするのがめんどくさいんすよー。時間かかるし。

●ここまで読んでくれた人のための新年スペシャルおまけ企画「お年玉のもらい方でもらうお年玉」。


絵●龍野宏幸

研究ユニット●94年発足。生活上のグラマラスな題材について精力的but投げやりに探求中。今学会中に大停電が発生。本誌編集部のビルも騒然となったが、白熱した議論を展開していた学会員は誰一人としてその事態に気づかなかったという。生活学徒の真摯な姿勢を表す好エピソードだ。


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