第107回テーマ

学会主宰より前口上

生活様式学会2001へようこそ。諸君は横断歩道かなんかを歩いていて向かい側からやってくる知り合いに会ったとき、いかなる仕草や動作で挨拶をしているだろうか? とっさのファンタジックなイマジネーションが試される、邂逅の瞬間の物語。

報告一

片手を顔の辺りに軽くかかげて相手に合図を

手を上げて横断歩道を渡れい!

 知り合いなんだから親身な挨拶を交わしたいが、ゆっくりくっちゃべったりしていては信号が赤に変わってしまうので危険。「ヨッ」という感じでお互いが軽く片手を上げ、現実的な礼を交わして去るのが、安全的にも交通標語的にも笑点の松崎真的にも望ましいのだ。


報告二


日本人の国民性に従って軽く頭を下げるべし

稲穂の国のペコ

 米を主食とするわが国では昔からお辞儀が尊ばれてきた。人に会ったら反射的に頭をペコッと下げるというのは、「実るほど頭を垂れる稲穂かな」と詠う国民性にジャストフィットした挨拶方式なのである。すれ違いざまは軽く会釈。日本文化の真髄がここにはある。

報告三


手を小刻みにブルブルさせて女子っぽく挨拶

メスどもの震え

 「キャーさおりーん!」などと相手の名を呼びながら、胸の前辺りに持ってきた手を横方向に小刻みに震わせて去っていくのが、現段階では最もフェミニンな挨拶とされている。この場合、別に久々の再会ではなくても目と口を最大限に開いて喜びを表現するのが正統。

報告四


派手なアクションと音で出会いの喜びを満喫

オレたちマブダチハイタッチ

 知り合いと偶然遭遇とは、なんと素晴らしいことだろう。この喜びを二人で満喫するには、頭上高く掲げた手と手をバチンと合わせるアメリカ風のハイタッチが一番。「手のしわとしわを合わせてしあわせ」とか言って笑えるのは友達同士ならではの特権なんだっち。

報告五


クールで多忙な大人が選ぶ徹底無視スタイル

何も言わない、何も言われない

 知り合いの姿を確認したら、すぐに視線を前方か下方か上方か虚空に固定し、相手に気づかなかったかのように無言で通り過ぎるべき。クールで多忙な大人にとっては無視こそが実は最高の挨拶。その味わいは、何も足さない、何も引かない上質なウィスキーの如し。


報告六


セクハラそのものと言える禁断のケツタッチ

知り合いの尻愛は私利私欲

 己の心に正直に生きるか。それとも己の心に嘘をついて生きるか。この根源的な問いを思い浮かべるならば、人はすれ違いざま相手の尻をナデナデする挨拶方法を選択するのが当然。……そんな詭弁にうなずいて尻を触らせてくれる天使のような知り合いをみつけよう。

報告七


携帯電話ごしの挨拶で生身のふれあいを回避

渡ぬ! 電話少年

 情報端末が普及するにつれ、人間同士の生のコミュニケーションは億劫になってくる。これはのっぴきならない真実だ。すれ違いざま相手の携帯電話をプッシュし、「よぉ」「じゃ、また」と電話ごしに挨拶を交わす少年たちはすでに実在する。……なぜ気づかない?

報告八


横断歩道の上のフォークダンスで青春を再現

嗚呼、青春のオクラホマ・ジャンクション

 都会の灰色交差点をノスタルジックなセピア色に一変させる唯一の挨拶方法、それはすれ違いざま知り合いと腕を取り合ってフォークダンスしながらの一回転ターン。無論、鼻歌はオクラホマミキサーだ。半回転で手を離すと、もといた側に戻る恐れがあるので注意。

■学会主宰より総括

 にくきもの、急ぐ事ある所に、長言する客人−−とは清少納言の言であるが、このような人物に横断歩道上で会ってしまうと死の危険にさらされることにすらなりかねない。遮断機が下りつつある踏切ではなおのこと会いたくない。さて、総括である。

 報告1手を上げて横断歩道を渡れい!の主張はそのとおり。が、面白味には大いに欠ける。松崎真がそうであるように。

 報告2稲穂の国のペコの主張はそうかもしれない。しかし多忙で気ぜわしい現代人の場合、会釈ごときでは相手に気づかれない危険性あり。つまり地味すぎ。

 報告3メスどもの震えにはどうしても一言だけ言わせていただきたい。ぬわぁにがさおりんだ小刻みだぶわっかじゃねえのっ。

 報告4オレたちマブダチハイタッチはアメリカンテイストなのに「手のしわとしわを合わせてしあわせ」とか言っているあたりがどうも。

 報告5何も言わない、何も言われないは挨拶として成立しているのか、いないのか。

 報告6知り合いの尻愛は私利私欲を許してくれる天使のような知り合いなどイメクラ以外には存在しないという現実を直視せよ。

 報告7渡ぬ! 電話少年は問題作。でもね、生もいいもんだよ、感じ方が全然違うって。

 報告8嗚呼、青春のオクラホマ・ジャンクションは素晴らしい。何が素晴らしいって、こんなことができる知り合いっていいなと自分たちも周囲の人々もしみじみと思うに違いないところがエクセレントかつエレガント。

 というわけで今回の推奨スタイルは、殺伐とした横断歩道に一瞬にして懐かしさと苦笑をまき散らすに違いない嗚呼、青春のオクラホマ・ジャンクションとしたい。以上。

■学会副宰よりあとがき

●2001年年明けを飾るネタとして「賽銭の投げ方」「初日の出の眺め方」を研究したのに、時期を逃してしまったのが残念。
●「ジェラシーは俺様のガソリンさ!」。これは副宰が掲げる2001年のテーマということだ。はあ?




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