第39回テーマ

■学会主宰より前口上

当学会へようこそ。諸君は暑くて脱いだセーターを持ち運ぶとき、いかなる工夫をしているだろうか。よくいるじゃん肩に羽織ったりする奴〜、などといったあの類いの小細工のことである。もちろん、その際はさりげないファッションセンスも問われる。脱いでるのにセンスが必要というこの微妙な命題に、論者らが挑む。

■報告一



ギョーカイ人ハヲルちゃん

華やかな虚業を
思わせる肩羽織り型

 セーターは脱いだらサッと羽織る。大都会に生きるシティー派の常識だ。袖は縛らない。みだしなみに気を遣うギョーカイ人は、服にシワがつくのを嫌うのだ。キザを気取りつつ誰かをおんぶしているような錯覚も楽しむ。孤独な都会でタフにやっていくために彼が覚えた術である。(氏)

■報告二



尻を隠して前隠さず

下半身デブに悩む
女性を救う
尻隠蔽

 上半身は結構華奢な方なのに下半身は意外なほど肥大していて…と悩む女の子にとって、脱いだセーターは最高の楯。ウェストで袖を縛って身頃を後ろに持っていけば、いかに巨大な臀部でも完全にカバーできるわけ。オナラも結構バレにくいし、これなら堂々と街を闊歩できるね。(稲)

■報告三



6月のパレオ

腰結びに
アレンジを加えた
上級テク

 脱いだ服もコーディネートに役立てるのがおしゃれの上級者。袖の結び目をサイドに持ってくればホラ、素敵なパレオのできあがり。パレオの下に何も着てない感じで見せられれば男の子はもうドギマギもの! ビーチリゾートにいる気分になりきって梅雨なんかふっとばしちゃお。(石)

■報告四



男一匹セーター番長

無頼漢の魅力を
演出する肩ひっかけ

 学帽の割れたつばからのぞく鋭い目線。ぞんざいにくわえた楊枝。河原の決闘で猛者どもを一人でこてんぱんに叩きのめした番長。そんな番長に憧れたキミなら、脱いだセーターはむんずとつかんでばさっと肩にかけるしかないだろう。男たちよ、番長たれ。ただし学帽はなくても可。(辻)

■報告五



ある意味、渋谷のタスキング

一体感と呼吸を
約束するタスキ掛け

 セーターはなくさないよう体に縛っておきたい。それは人情だ。が、首に縛ったのでは何らかの拍子に袖が引っ張られて窒息しそうなのが怖い。それも人情だ。そこでタスキ掛け。肩から脇への斜めラインが適度なホールド感を約束する。気道の確保は渋谷制覇のマストアイテムだ。(高)

■報告六



焼肉日和

肉の味を想起させる
前かけスタイル

 「たまのデートだもん、おいしい焼肉が食べたいな〜。彼にも精をつけてもらわないとねムフ。 でもそんなこと言ったら淫乱女と思われるかしら…」。ご安心を。セーターを首の後ろで縛れば、焼肉屋の前かけを思い出した彼が誘ってくれます。「なんか今日って焼肉日和だね」と。(永)

■報告七



四本腕の怪人

大人の女は
脱ぎかけの
美学を極めよ

 服を完全に脱いでしまったのでは味気ない。エロスは脱ぎかけにこそあるのだ。その辺の小娘とは違う大人の女を意識するなら、セーターは腕だけを脱ぎ、身頃はそのままキープしておくべき。腕が多くて千手観音みたいでしょと誘うのも小娘にはできぬ熟女の戦略とは言えまいか。(遠)

■報告八



アラビアのロレンス日本版

ターバンのように
頭に縛りつけよう

 強い日差しを浴びて日射病になってしまっては大変。砂漠地帯で暮らす人々の知恵にならい、太陽の下ではまず頭部を覆うのが肝心だ。セーターを額で縛っておけば、日射病だけでなく、汗や砂ぼこりの目への侵入防止、髪のばらつき防止にも役立つ。万能防止帽子、というわけだ。(中)

■学会主宰より総括

セーターの始末にこそメッセージをこめよ!

 ここでは各論説の鮮やかな切り口あるいはぶった斬りかた、およびその結果としてのそれってイケてんの的到達点等に留意して論説を加えていくこととする。

 報告1【ギョーカイ人ハヲルちゃん】はどう読んでもアイロニーに染まり切った文面である。ハヲルちゃんは是か非かと問われれば「大都会を生きるシティ派」あたりで実はすでに非を唱えているのではないか。

 報告2の【尻を隠して前隠さず】は尻隠し効果は認めるものの、巨大な臀部のくだりでこの人ははたしてセーターの腕がウエストに回り切るのだろうかと考え込んでしまった。

 報告3【6月のパレオ】はいっそ本当に剥き出しの下半身に巻いてみろと怒鳴りつけたくなる。

 報告4【男一匹セーター番長】の意味不明なアナクロさには学帽もとい脱帽したが、やはり何のことやら。

 報告5の【ある意味、渋谷のタスキング】はなぜ渋谷なのだろう。

 報告6の【焼肉日和】には「そんなバカな!」と一笑に付しそうになりながらも「待てよ」と考えさせられる奇妙な説得力がある。腹が減ってるからでは断じてなく、恐らくはセーターが前方に垂れているその姿が妙に哀れだからだ。

 報告7の【四本腕の怪人】の彼女とは、一度エロスについてとことん議論し合う必要があるだろう。

 報告8の【アラビアのロレンス日本版】は日本はそろそろ梅雨だとは知らなかったようだ。

 というわけで今回の推奨スタイルは、思わぬところで涙と食欲をそそった【焼肉日和】としたい。以上。

■学会うらばなし

●報告1では、腕を結ぶか結ばないかが大きな争点だったが、キザなのはどちらかという観点が導入されたことにより前者を採用。なお、セーターの羽織り方という分野では、現フロム・エー東海版編集長の平賀充記という偉大なる碩学の存在があることを、この場を借りて記しておきたい。

●報告2は、主宰夫人の体験がもとになっているとかいないとかいるとか。

●報告3では、「女の子の絵のワキをもじゃもじゃに」と訴える事務員に批判が噴出。

●報告4で意識されているのは、学帽の政と山崎銀次郎、そして若干のイワキ。

●報告5の報告名では、「たすき」と「がけ」の両方に鋭く二重の意味を添加した「タスキーな賭け」が本命視されていたが、「タスキ掛けって別にリスキーじゃないよね」という至極もっともな指摘がなされ、ボツの憂き目に。採用された「ある意味、渋谷のタスキング」に関しては、なんでも「渋谷系」って言っておけば副宰と事務員にはどうせわかるまいといわんばかりの主宰の驕った気質が明らかに。

●報告6では、いかにもタイトル然とした「歩く焼肉女」、いにしえの早口言葉に深いリスペクトを表した「隣の客はよく焼肉食う客だ」に話題が集中する中、ちょっと「バナナフィッシュ日和」を思わせてサリンジャー的にいいのではという勘違いから、「焼肉日和」に決定。

●報告7の報告名で意識されているのは実は乱歩だが、伝わってはいないだろう。

●報告8の報告名では、「日本版」と「日本語版」のどちらにするかで議論が白熱。「じゃあ、『アラビアのロレンス4.5J』にしよう」と副宰が言い出すに及んでようやく議論の意味のなさに気づいた主宰が「日本版」と決定した。


研究ユニット●94年発足。生活上の

グラマラスな題材について精力的but投げやりな探求を行う。落ち込む読者人気率に顔が曇りがちな我々だが、主宰の息子には好評という情報で無理に勇気づけられた。ちなみに副宰の娘はページを見せると泣く。



生活様式学会トップに戻る