第94回テーマ

■学会主宰より前口上

 生活様式学会2000へようこそ。諸君は常日頃、単行本をどう愉しんでいるだろうか。むろん読んで愉しむのは本道だが、本にはそれ以外にも様々な愉しみが存在する。たとえばここにたまたま『生活様式学入門』という本がある。いかにも楽しげな雰囲気に満ち満ちている。手に取って買ってみれば何かわかるかもしれない。えー、そんなこんなでひとつ。

■報告一



面植物ホン吉

押し花(葉)
の作成は

知的な乙女の
たしなみ

 お好きな植物を野原で採集したら、本に挟んで押し

花や押し葉を作ろう。素敵なしおりになるし、そのまま本を他人に貸し出せば、相手は勝手に可憐な文学少女イメージを持ってくれるはず。ただし、へそくりや平面ガエルのピョン吉を挟んで貸すのはちょっと危険。



■報告二



ッド本ウォークマン

レディの
たたずまいが

身につく
頭上積載歩行

 いつかは真のレディに、と考える殊勝な女の子なら、『マイ・フェア・レディ』のオードリーばりに、頭に本を載せて歩いてみて。自然に背筋が伸びて正しい歩き方になるだけでなく、やじろべえ的バランス感覚が味わえて愉快よ。ついおーどりーだしたくもなっちゃう。


■報告三



ンスタント型害虫標本

手を汚さずに
虫を殺しつつ
宿題も完了
させよ

 夏休みの自由研究がまだ決まってないという小学生

諸君にお薦めなのが、開いた本をパタンと閉じてカやハエなどのイヤな害虫を圧死させる方法。手に触れないよう清潔に虫を殺害したその瞬間にはもう素晴らしい昆虫標本が完成しているから、カカカッと笑えます。

■報告四



生! カモメブックス

海上を自由に
飛ぶ鳥の
羽ばたきを
忠実に再現

 この夏、海と青空が似合う期待の新レーベルが産声

をあげました。その名もカモメブックス。青春の季節に最適な良書を厳選した好シリーズです……といった脳内アナウンスを流しながら、開いた本を上下に揺らして放浪カモメっぽくするのがいいカモメ(かもね)。

■報告五



式卓球

略式ではなく
本格的な

ピンポン
スタイルとは

 くいずです。第3次卓球ブームと騒がれて既に久しい昨今ですが、略式ではない、本当の形式で卓球をプレイするやり方って、な〜んだ? ……唯一の正解は、単行本をラケットに見立てて思う存分タマを打ち合うこと。その心は文字通り「本」式だから。ピンポーン!

■報告六



スクトップ・ドリブラー

素材の弾力を
活用した

バスケットの
新練習案

 超一流バスケット選手ともなると何でも自分のテクを磨くことに利用するもので、本を手に取った場合はガバッと開いて伏せて置き、背をちょんちょんと押し下げるのが普通なんだ。紙の弾力を利用してドリブルの感覚を養う方が、読むよりもトリプル楽しいってよ。

■報告七



どもにウケる生活様式学手品32

接着剤を使わず
に二冊の本を
マジカルに接着

 『生活様式学入門』を2冊用意します。本のページを互い違いにかみ合わせます。すると……ア〜ラ不思議、接着剤を使ってないのに本がくっついてしまいました。引っ張ってもびくともしない世紀のマジックに子どもたちは大喜び。2冊も買ってもらえれば学会員も大喜び。


■報告八



上のドミノ理論

現代生活様式
学会から

皆様への
婉曲的お願い

 『生活様式学入門』を100万冊用意します。広々とした場所に本を並べ終えたら、慎重に1冊目を倒します。単行本ドミノ倒し世界記録へのチャレンジです。見事成功の暁には、大いなる精神的満足感があなたを覆い、大いなる経済的満足感が学会員を覆うことでしょう!

■学会主宰より総括

一冊に込められた密かな野望と諦観

 真の雄弁は雄弁を笑う−−とはパスカルの言であるが、たしかに深くうなずかざるを得ない。野望に満ちた今回のテーマは読者諸兄の笑いを呼ぶのか、涙を誘うのか。不安。さて、総括である。

 報告1平面植物ホン吉は様々な意味において言わずもがな。しかし一見ロマンチックな押し花も、押しつぶされる花にしてみれば残酷きわまりない仕打ちとも思う。

 報告2ヘッド本ウォークマンはレディのくせしてウォークマンなのが、何やら気になる。

 報告3インスタント型害虫標本はなかなか素晴らしい。とは思うものの、先に植物に同情してしまったので、虫にとっても残酷きわまりないという事実を無視するわけにはいくまい。

 報告4誕生! カモメブックスはあまりに孤独な愉しみ方。

 報告5本式卓球は本式にしては貧乏たらしい。

 報告6デスクトップ・ドリブラーはユニークな発想だが、残念ながら何が楽しいのか今ひとつよくわからない。

 報告7子どもにウケる生活様式学手品32が子供にウケるとしたら、あまりのナンセンスゆえであろう。

 報告8机上のドミノ理論は素晴らしい。まず100万冊というのが素晴らしいし、次にそれが次々と連鎖して倒れていく様を想像するのが楽しくて素晴らしい。問題は100万冊も市場に出回るのかという一点のみである。

 というわけで今回の推奨スタイルは、その圧倒的なスケール感で単行本という個人的な所有物を使った愉しみを一大イベントに仕立て上げ、なおかつ絶対に無理という空虚感を醸し出すことにより形而上的感動をも呼び起こす机上のドミノ理論としたい。単行本発売は7月31日です。以上。

■「学会うらばなし」

●単行本発売にからめ、勇気を出して禁じ手もいうべき露骨なお題を採用した当学会。読者諸君にも、ネットの掲示板に「ねぇ『生活様式学入門』って知ってる?」と書き込むなどの草の根的PR活動を奨励中。嘆願中。


絵●龍野宏幸

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