第37回テーマ

■学会主宰より前口上

当学会へようこそ。諸君はいざヤクルトを飲まんと欲するとき、いかなる開け方を講ずるだろうか。そう、ここで主として問題にすべきは、ヤクルトにあって独特の存在感を放つあのアルミ箔のフタの処理である。フタとの取り組み方こそが、闘いの雌雄を決するとすらいえる。今シーズンも意外とヤクルトは強いようだし。

■報告一



ズルムケ

男子なら
フタはすべて
取り去るべし

 成人男子たるもの、たった65mlしかない乳酸菌飲料をちまちま飲んでいるようではいけない。接着用合成樹脂で本体に密着した高純度アルミニウム箔のフタをガバッと取り去り、中身は一気にひと飲みせよ。息継ぎは不要。余計な包皮も不要。それがひと皮むけた大人の男の証なり。(播)

■報告二



夢の途中

フタは
途中までしか
むかないのが通

 フタを全部取り去るのは浅薄。ヤクルト者なら缶飲料と一線を画す容器特性を理解すべきだ。全体の半分程度でむきむきを中断し、フタを本体に付着した状態でキープ。これなら飲用途中で急用ができた時でもフタをし直して保存しやすいのだ。急用後のヤクは夢の味がするという。(手)

■報告三



僕スト郎

ストロー使用は
上流階級の
シンボル

 上流階級の人間には、容器に直接唇をつけて大口開けて飲むなんてことは下品極まりなくてできない。ストローをフタにさすことでヤクルトと適度な距離感を保つデリカシーが求められよう。もし数人の仲間で回し飲みする場合も、各自が消毒済みマイストローを使用すれば安心だ。(南)

■報告四



微穴主義

長く味わうなら
楊枝穴開け
吸い込み

 ヤクルトには大容量ボトルがない。この事実を厳粛に受け止める真の愛好者からすれば、一気飲みなどはもってのほか。爪楊枝でフタに開けた微かな穴からちゅーちゅー吸い込み、十分分泌した唾液で薄めながら少量ずつよく味わって飲むのが正しい。少し愛して。なが〜く愛して。(辻)

■報告五



ずっころ

中指でフタを
突き破る
手荒な開け方

 「脚は太いが胴にくびれの兆しあり…か。フン、まだ熟れてない処女の体だな。大人の女になりたいんか…ど〜れ、俺がブスリ破ってやるよ」と念じて指を突きさすのを妨げる権利は誰にもない。ずいずいずっころばし風に挿入して甘酸っぱくなった中指をなめるのを妨げる権利もだ。(石)

■報告六



トドの牙

フタを齧って
穴を開ける
動物的作法

 もし自分が人間ではなく、1本に65億個以上のヤクルト菌を体内に取り込みたいと熱望する海獣だったとしたら…。誰もが耽りがちなこんな妄想に対応するなら、前歯でフタを齧って穴を開け、そのまま口でくわえてアウッアウッと飲むしかないだろう。人は人である前に動物なのだ。(稲)

■報告七



ビフィッ

力自慢なら
握り潰した
勢いで
開けろ

 リンゴを握り潰すのは来日レスラーが怪力をアピールする絶好のパフォーマンスだった。ヤクルトを握り潰して内部の圧力でフタを開けるのもまた、馬鹿力を見せつけるにはいい催しだ。飛び散るので中身減らし効果が高いが、容器の体積減らし効果も高いためリサイクルにもいい。(氏)

■報告八



天地激変

コペルニクス的転回を
思わせる底飲み

 ヤクルトを逆さまにし、底を歯で噛みちぎって飲む家族がいた。世帯主曰く「普通に飲むと底にたまったのが残っちゃうじゃん」。確かに、沈殿した無脂乳固形分には蛋白質、糖質などの栄養素が含まれ、その発言には説得力がある。振って普通に飲めばいいと皆さんは思いますか?(榎)

■学会主宰より総括

ヤクルトのアルミ箔の薄き独特のフタは誘う

 ここでは各論説のもっともらしさあるいはあやふやさ、およびうさん臭くもアヤシい奇天烈怪奇な摩訶不思議さ等に留意して論説を加えていくことにする。

 報告1の【ズルムケ】は盛んに息継ぎや包皮不要論を説いてはいるが、そもそもズルムケという語感に不快感を覚えるであろう女子側の視点が欠けていて文句を言われそうなのが怖い。

 報告2【夢の途中】のフタむきを中途でキープする方法はわかったが、ヤクルトを飲むのをやめるほどの急用とはどんな用かというむしろそちらが気になった。

 報告3の【僕スト郎】は、上流階級ならコップに移して飲みそうだがいかがか。

 報告4の【微穴主義】はヤクルトの飲料としての特性を見事に捕らえていると膝を打ちそうになったものの、最後になにゆえ大原麗子なのかとの疑念を抱いた。

 報告5【ずっころ】の通俗官能小説的な描写についてはまずおくとしても、そのブスリ感にはたしかにそそられるものがあると感じ入ってしまったのは遺憾。

 報告6の【トドの牙】は、実際にやってみたところヤクルトがこぼれて着衣に染みが出来たため却下。

 報告7の【ビフィッ】だが、名称がビフィズス菌を意識したのならば、ヤクルトに含まれるのはヤクルト菌(L.カゼイ・シロタ株)であることを指摘しておく。

 報告8の【天地激変】はフタを無視しているという意味で言語道断。

 というわけで今回の推奨スタイルは、人々のヤクルトに対する劣情的とも言える狂おしい思いを中指ブスリで体現してみせた【ずっころ】としたい。以上。

■学会うらばなし

●説の名前が長すぎるという厳粛な自己批判を踏まえて、今回は8説名全てが4文字で統一されていることに留意されたし。
●報告1では包茎、報告2では来生たかお(セーラー服と機関銃)、報告3では「ぼくドラえもんです」、報告4ではいわゆる一穴主義(もしくは美穴主義)、報告5ではずいずいずっころばしがそれぞれ念頭におかれていることに留意されたし。報告6は特に元ネタがないが、今思うと「少年犬歯」の方が雰囲気だったか。報告7では主宰の指摘にもあるように、ビフィールないしミルミルとの混同が相当に恥ずかしい。報告8はなんとなく角川映画「天と地と」が意識されているかもしれない。


研究ユニット●94年発足。生活上のグラマラスな題材について精力的but投げやりな探求を続ける。学会の取材に来たテレビ朝日の吉本アナが飯島愛に似ていたことを思い出した副宰は、鼻高々にEメールで報告したが、主宰からはレスがなかった。


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